「生きもの地図をつくろう」(浜口哲一)

長期休みの自由研究、こんなのいかがですか

「生きもの地図をつくろう」
(浜口哲一)岩波ジュニア新書

現在、
コロナ肺炎感染拡大防止のための
臨時休校期間に入っています。
夏休み並みの長期休業なのですが、
子どもたちは部活動も休止、
家にだまって
閉じこもっているだけの毎日。
なんともはやしかたありませんが。
こんなときに何ですが、
長期休みの自由研究についての本を
一つ紹介したいと思います。

何でも今は、
夏休みの宿題や自由研究を、
親が手伝うのが常識になっているとか。
自由研究や工作は、
親と子の合作がほとんどという話も
聞こえます。
いい本があります。
「生きもの地図をつくろう」、
素晴らしい一冊です。

本書の特徴の第一は、
筆者が自分の脚で
時間をかけて丹念に調査を行い、
その実践をもとに
著されているということ。
筆者は学芸員であり、
自身が主導した
住民参加型のタンポポ調査の手法を、
誰でも気軽に実践できるように
一般化したものです。
特に中学生が自分の学校区の、
四季の自然を調査することを
想定した内容です。

特徴の第二は、
筆者自身の豊かで鋭い観察眼が
遺憾なく発揮されていて、
読むだけでも身近な自然を
再発見させてくれるということ。
春はタンポポ、梅雨はカエル、
夏はセミ、秋は鳴く虫、
冬は野鳥と並びます。
自然調査する気がなくても、
読むだけで日本の四季の変化と
その多様性に気付き、
日本は素晴らしい
自然環境の国なのだと、
感慨にふけることができます。

そして最大の特徴は、
身近な自然環境調査を取り上げながら、
自然科学の探究の手法の重要点を
もれなく解説してあるということ。
本書は子ども向けの科学入門書という
レベルにとどまっていません。
探究もしくは研究は、
このような手順を踏んで
行われるべきである、
という明確な指針が示されています。
「記録をしっかりとる」という、
この最も基本的なことが
行われていれば、
数年前のSTAP細胞だって、
今頃しっかり認められていたのでは…。

そうです。本書はジュニア新書と
銘打たれているのですが、
自然科学探究のバイブルとなるべき
深い内容を持つ本なのです。

筆者の地道な努力と
深い洞察力に敬意を表し、
中学校理科の準教科書と認定します、
私が文部科学大臣なら。

さあ、これを片手に、
夏休みの自由研究を頑張ろう、いや、
この理不尽な長期休業中の
自主的自由研究として頑張ろう。
家にだまって閉じこもっていて、
エネルギーの使い道のない中学生諸君、
ゲームに現を抜かしていないで、
本書を読んで、
自然に目を向けてみようじゃないか。

追伸。
この筆者の他の著作を読みたいと思い、
ネットを検索したところ…、2010年に
すでに亡くなられていました。
ご存命であれば、
若い人向けの自然科学入門書を
多数著していたのではないかと
思われます。
合掌。

(2020.3.10)

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